手続き全般について

統計データから読む個人再生事件1

日弁連では、定期的に破産、再生事件の統計データを収集して公表しています。

 

「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」では、2019年6月~11月までの各地裁(50カ所)の個人再生事件(小規模個人再生申立、給与所得者等再生申立を含む)を各10件(但し高裁所在裁判所は25件ずつ)無作為に抽出し、調査して統計データが作成されています。

2019年に申し立てられた個人再生事件は全国で13,594件ですから、そのうちの約5%という少ないサンプルではありますが、債務の原因や収入の分布など興味深いデータが確認できます。

 

以下、統計データ分析の結果、それぞれの原因や今後の傾向について、当事務所がお伝えします。

 

 

負債の原因、多いのは?

負債の原因となったものについて、病気、失業、事業資金返済困難などは、破産よりも少ないようです。

かわって、ギャンブル、浪費、クレジット購入、教育資金、住宅資金による債務が多いのが個人再生事件の特徴です。

 

中でも多いのは「生活苦」「浪費」「住宅購入」「ギャンブル」です。

浪費やギャンブルは、破産手続きでは免責不許可事由になりますから、破産を避けて個人再生を選択した人が多いということが推測できます。

 

少ないのは、「名義貸し」「投資の失敗」「債務保証」「失業」などです。

失業が少ないのは、失業したままだと収入が確保できないため、一部でも返済し続けることが必要な個人再生が使えないからでしょう。

 

15年の推移で増加、減少した原因

統計データの作成は2002年から3年ごとに行われており、計6回の調査結果の推移も確認できます。

債務原因として、ここ15年で増えているのは「教育資金」「ギャンブル」「浪費・クレジットカードによる購入」が目立ちます。特に「浪費・クレジットカードによる購入」は群を抜いており、クレジットカードの契約・利用が気軽にできることや、リボ払いなどで毎月の支払い額が抑えられ、債務額が把握しにくくなっている側面がうかがえます。

 

逆に減っているのは、「失業・転職」「負債の肩代わり・債務保証・名義貸し」などです。

債務保証については、平成15年に「書面によらない保証契約は無効」となる法改正がありました。また、保証会社による機関保証が普及し、個人を保証人に求める金融機関が少なくなったという背景があります。

 

令和2年の民法改正によって、保証限度額の設定や情報提供義務、融資債務の公正証書義務化など、保証債務に対する規制はより強くなりました。今後も、保証債務によって経済状況が悪化する例はより少なくなっていくことが予想されます。

 

申立人の年齢や性別、収入は

統計データを見ると、申立人のうち約8割が男性となっています。(破産は男性55:女性45)。

年齢は30~50代がおおよそ87%を占めています。個人再生はまず収入がないと難しいので、この年代の方々は、ある程度安定した収入を得ている方が多いと推測できます。

また、結婚、住宅購入、交際費や遊興費の借入れなどによって、年を追うごとに債務が増える年代でもあります。

しかし、20歳代での申立ては6.56%、60歳代以上も6%はあるので、年齢に関してはひろく分布しているといえます。

 

ただし、70代を超えると0.54%しかいません。70代を超えると、年金以外には安定収入がある人が少ないこと、住宅ローンは支払い終えていることが多いことなどが原因と考えられます。

 

申立人の収入について、手取り月額20万円以上が64%、30万円以上は27.3%となっていますが、本人の収入のみのようです。(当事務所の印象ですが、家族がいる場合、世帯収入として20万円~30万円程度では再生手続きによる返済が厳しい印象です。)

 

申立人の職業は、83%が正社員となっています。それ以外に9.6%が給与所得者(契約社員やパートなど)、会社役員が1%、自営業は5.5%です。

事件サンプルのうち8割が「小規模個人再生」で申し立てていますから、「給与を受け取っている=給与所得者等再生を選択する」というわけではありません。

 

負債額、債権者の分布

負債額については、分布が広いうえ、住宅ローンの有無は分けられてないのであまり参考になりません。

200万円未満が2%程度ありますが、個人再生の最低弁済額が100万円であることを考えると、住宅ローンの巻き戻し案件など特殊な事例だと思われます。

もっとも多い金額帯は、500万円以上3000万円以下で、3000万円を超えると10%程度しかありません。

この10%に住宅ローン含む案件が混在していると仮定すると、住宅ローンを除く債務額が3000万円以上の事件は非常にまれだといえます。

 

72%の申立で債権者数は10社以下です。20社以下まで含めると99%となり、20社を超える事件はほぼありません。

 

債権者の属性は、57%が登録貸金業者(信販、消費者金融)、6%が金融機関(銀行、信金等)、政府系(政策金融公庫、奨学金)が計3%くらいです。保証会社(事業資金、住宅ローンの保証会社や、一般債務のサービサー)は25%程度となります。

一見、金融機関の債権者が少ないように思えます。しかし、銀行や信金は弁護士が受任通知を送付してしばらくすると、延滞債務を保証会社に払ってもらう(代位弁済)ことが多いので、申立時点で債権者として残るケースが少ないのです。

 

個人の債権者が全体の約6%となっています。

もちろん、単一の種類だけ(「消費者金融だけ」、「個人債権者だけ」)の申立人はおそらくほとんどいないので、一人の申立人に混在しているはずです。

 

 

今回は、申立人や債権者の属性について着目してみました。

 

元資料をご確認になりたい方はこちらをご覧ください。

(ページ最下段にPDFへのリンクがあります。データ量が大きいので、閲覧する環境にはご注意ください。)

 

 

次回は、事件の進行や結果について見てみましょう。

 

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。