手続き全般について

その専門家、大丈夫? 個人再生を依頼するまえに

前回は、債務整理の相談を受ける際に、気を付けたほうがよい相談のポイントをご説明いたしました。

今回は、債務整理相談のうち、個人再生を依頼する際に気を付けたほうがよい弁護士、司法書士ら専門家の特徴や具体例をお示しします。

 

・減額見込を示さない「専門家」

・財産のことを聞かない「専門家」

・どうやって支払えるのか聞かない「専門家」

・まとめ

 

減額見込を示さない「専門家」

 

個人再生は住宅ローン、税金等を除いた一般の借入金、クレジットなどを大幅に減額する制度です。このとき、借入先や債務の性質、総額がわかれば、それに応じて返済する最低額(≒減額される見込)が想定できます(※住宅ローン、税金など例外を除く)。

 

たとえば…

総額500万円以下 → 100万円以上の返済

総額500万円以上1500万円まで → 20%以上の返済

が最低限の返済額になります。

 

 

「相談者の債務が再生手続きで減額される見込みがあるのか」

「債務額に応じた最低の弁済額はいくらになるのか」

このようなことは、個人再生手続きの仕組みのうち、非常に基礎的な知識です。

 

それにもかかわらず、総額に応じた減額の見込みを説明せずに契約手続きを進める弁護士、司法書士は、再生のことをあまり知らないか、あるいは本当に返せるかどうかを考えていない可能性があります。

 

財産のことを聞かない「専門家」

個人再生手続きでは、財産の種類や評価額に応じて、最低弁済額が増えることがあります。

具体的にいえば、債務総額(100万円~5000万円)から最低弁済額(100万円~500万円)が決まりますが、この最低弁済額を超えない財産であれば再生計画に影響はありません。

しかし、手持ち資産の総額が最低弁済額を超えてしまう場合には、超える分だけ返済を増やすか、あるいは財産を一部処分せざるを得なくなることもあります。

 

手持ち資産のなかでも、預貯金や自動車は、相談者もおおよその価値を把握しておられます。

しかし、ご家族がかけている保険、退職金の見込額、自宅を売った場合に手元に残る見込額について、正確に把握している相談者はそれほどいません。

極端なケースでは、見込額が大きすぎて、減らしたい債務がぼとんど減らないこともあります。

 

個人再生の申立に慣れていない弁護士、司法書士は、こういった財産状況の聞き取りを十分しないまま、債務整理方針を決めてしまいます。

 

その結果、申立の直前になって(最悪の場合、申立後に裁判所から指摘を受けて)、高額の財産が発覚し、再生計画を大幅に変えたり、不本意にも自宅売却や保険の解約をせざるを得なくなったりする場合があるのです。

 

なお、依頼をお引き受けする前に、全ての資産調査とその評価を行うことは難しいのが現状です。それでも、専門家であれば少なくともその見通しや可能性は確認しておく必要があります。

この点に留意せずに、個人再生を引き受ける弁護士、司法書士は、今後、依頼される方にとってリスクが高いと思ってよいでしょう。

 

どうやって支払えるのか聞かない「専門家」

再生手続では「履行可能性」、つまり債務を一部減らせば残りをきちんと払える見込みがあることを示すのがとても重要です。

 

「家を残したいから」

「仕事を絶対辞めたくないから」

 

といった理由で個人再生を強く希望する方でも、

 

「最低限必要な月々の生活費はいくらか」

「税金の年間支払い額はいくらか」

「半年ごとに支払う高額の費用(保険料、学費、契約更新料)はいくらか」

 

といった現実的な数字は、あまり把握していない方が多いのが実情です。

 

経験豊富な専門家であれば、再生認可に必要な月額を今後3年から5年の間支払えるのかにつき、夫婦の月収や家族構成から、標準的な、食費、光熱費、通信費などを想定して、ある程度の見込みは立てられるはずです。

 

にもかかわらず、家族構成や夫婦の月収、お子様の就学状況などを聞かない弁護士、司法書士は、引き受ける事件について、再生が認可される可能性を具体的に考えていない場合があると判断してよいでしょう。

 

まとめ

個人再生手続きは、債務総額、保有する財産の種類や評価、家族の収入や生活状況によって、成功の見込みが変わる、個別性の高い手続きです。

経験豊富な弁護士や司法書士であれば、相談の時点でしっかり事情を聞き取りして、ある程度の見込みが立てられるはずです。

 

しかし、再生申立の経験がない弁護士や、十分に事前聞き取りをしない司法書士であれば、見込みを立てずに申立ててしまい、再生が失敗する危険もあります。

 

個人再生を依頼しようと考える方は、ご相談される弁護士さん、あるいは司法書士さんに対し、

①総債務額や手持ち財産からみて最低弁済額はどのくらいになるか、

②再生認可の可能性はどの程度あるのか、

といった見通しを尋ねて的確な答えが返ってくるかどうか、よく確認したうえで、依頼するようにしましょう。

 

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監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。