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個人再生から、任意整理への方針変更―最適な手段を選ぶために1―

個人再生は、状況によっては、債務整理の方法として最適ではない場合があります。

この記事では、個人再生の希望者が、整理したくない債務がある場合、残したい財産が高額の場合、または偏頗弁済が多い場合に、任意整理を選択するべき理由について説明します。

 

1. 整理したくない債務がある場合

個人再生では、すべての債務を裁判所に報告して整理の対象にしなければならないため、整理したくない(できない)債務がある場合には、個人再生は選択できないことがあります。

 

例えば、再生申立予定の依頼者が奨学金の返済を行っている場合、再生手続きが認可されるまで支払いを中断しなければなりません。その間に、(連帯)保証人には、代わりに奨学金を支払うよう連絡されます。

もし、連帯保証人に支払いが滞ったことを知られたくないのであれば、個人再生を利用できません。

 

同様に、自動車ローンを組んでいる場合、個人再生のために支払いを中断すると、自動車の引き揚げ(返還)が求められることが多いです。

残ローンを親族に肩代わりしてもらう場合や、残額があとわずかで、自力で返済できる場合を除いて、自動車を手放したくない場合には個人再生を利用できません。再生を前提に支払いを止めた後にこれらの事情が判明した場合、個人再生の方針を任意整理に変更することがあります。

 

2. 残したい財産が高額の場合

個人再生では、再生後も保有できる資産の上限額はありません。そのため、事業用あるいは生活上どうしても残したい資産(不動産、機械工具、車両、保険、退職金)の価値が高い場合には、個人再生を検討することになります。

ただし、手持ち資産の総額が最低返済額を上回る場合、資産総額に応じて最低返済額も増額する必要があります。あまりにも高額の資産の場合、それに応じた返済が難しく、再生を断念せざるを得ない場合があります。

 

たとえば、自宅不動産の価値が上昇し、売却すれば残ローンを払っても500万円の利益が見込める場合、500万円以上は返済する必要があります。

さらに具体的な例を挙げてみましょう。

一般債務が1000万円で、5分の1による最低返済見込額が200万円の場合、保険解約金、退職金、自宅の清算価値の合計が480万円あると、最低返済額は200万円から480万円に増加します。この場合、月額返済額もそれだけ増加します。

 

このような場合、(1)資産を処分したうえでの個人再生を選択するか、(2)任意整理によって(元金はへらないが)分割弁済するか、(3)資産処分したうえで自己破産して、弁護士費用と最低限の生活費(最大99万円)を残して残りは管財人に引き継いで債務を免除してもらうなどの方法を選択することになります。

 

3. 浪費が激しい、偏頗弁済が多額の場合

債務整理のために支払いを停止する前6カ月~2年のうちに多数の借入れ、資産処分があり、それらがギャンブルや課金、あるいは友人、親族への返済や援助(法律上、偏頗弁済(へんぱべんさい)といいます。)に使われている場合でも、ある程度の額までは個人再生の利用は可能です。

ただし、その浪費や偏頗弁済の程度が著しい場合、申立を棄却される場合があります(数十万円ではそのような認定がなされることはない)。また、偏頗弁済の一部は清算価値に計上されることが見込まれ、その金額を合計すると最低弁済額を大きく上回る場合(たとえば500万円以上)、個人再生を利用する意味がなくなる場合があります。

このような場合は、任意整理しか選択肢がないことになります。

 

以上をまとめると、個人再生は経済危機を克服するために有効な手段ですが、債務、資産やそれまでの使いみちから個人再生が有効ではない場合もあります。

整理したくない債務や高額な財産の問題を考慮して、任意整理が適している場合もあることを理解し、専門家のアドバイスを受けることが重要です。

 

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監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。