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最近の受任事件の傾向【2025年度】

最近の傾向(再生委員の選任理由を含む)2025年版

本稿では、TMG法律事務所が直近に受任した個人再生事件の傾向についてご説明します。
対象は、すでに申立てを行った事件に加え、受任後に申立準備中の案件を含む直近36件です。

特に注目すべき点として、再生委員の選任率がここ5年で大きく上昇していることが挙げられます。
当事務所では従来から、比較的規模が大きい、あるいは難易度の高い事件を受任することが多く、再生委員の選任率は平均より高めでしたが、近年は全国的にもこの傾向が顕著になっています。

目次
住宅ローン特則の利用状況
個人事業者による申立て
元法人経営者の個人再生
再生委員が選任される事件の傾向
まとめ

1 住宅ローン特則の利用状況

住宅ローン特則は、自宅を維持したまま、それ以外の債務を大幅に減額できる制度です。
そのため、破産も検討対象となり得る状況であっても、収入を維持でき、支出を抑制できる見込みがある場合には、自宅を守るために個人再生を選択する大きな動機となっています。

利用率は従来から全体の半数近くで推移しており、日弁連調査(2023年度)による全国平均は約41%です。
これに対し、当事務所では47%と、全国平均をやや上回る結果となっています。

2 個人事業者による申立て

個人事業者による個人再生の申立ては、全国的には少数派です。
日弁連調査(2023年度)では、全体の約5%にとどまっています。

しかし、当事務所における割合は42%と、際立って高い水準です。
相談時の状況を見ると、他の事務所で断られた、あるいは明確な理由は示されないまま受任を避けられたという経緯を経て来所される方が少なくありません。

もっとも、すべての個人事業者が個人再生を利用できるわけではありません。
これまで収支の記録を全く行っておらず、今後も整理が困難な場合や、赤字申告が長期間続いており黒字化の見込みが立たない場合には、ご希望に沿えないこともあります。

3 元法人経営者の個人再生

債務の主な原因が、過去の事業の失敗であるケースも多く見られます。

このような方の中には、かつて経営していた法人を正式に破産させず、休眠状態のままにしている方や、すでに廃業を余儀なくされている方が少なくありません。

現在は、個人事業に転向して再起を図っている方や、勤め人として安定収入を得ながら個人再生による債務整理を検討される方からの相談が多くなっています。

当事務所の直近36件のうち、8件、約22%は、関連法人を所有または経営していた方でした。
実務上は、まず法人を破産させ、その後に個人再生を行うという流れになるケースが多く見られます。

4 再生委員が選任される事件の傾向

東京や熊本など、原則として全件に再生委員が選任される地域は限られています。
全国的には、債務規模が大きい事件や、内容が複雑で問題点を含む事件に限って選任される傾向があります。

大阪では、住宅ローンおよび保証債務を除いた再生債務が3,000万円以上の場合には必ず再生委員が選任されます。
それ以外の事件については、財産評価が難しい場合や、履行可能性の判断が難しい場合などに限定して選任されています。

かつて大阪の選任率は約3%程度でしたが、最新年度である令和6年には24%にまで上昇しています。
その理由として、司法書士による申立事件の増加や、申立書に不備のある事件が増えている点が指摘されています(「月刊大阪弁護士会」2025年9月号)。

当事務所で直近に申立てを行った21件を調査したところ、7件(33%)で再生委員が選任されていました。
選任理由の内訳は、債務規模が大きい、または財産評価が困難な事件が2件、ペアローンなど難しい法律論点を含む事件が2件、偏頗弁済や浪費、過去の破産または個人再生歴があり、履行可能性に疑義が生じた事件が3件でした。

5 まとめ

近年の個人再生では、住宅ローン特則の活用に加え、個人事業者や元法人経営者による申立てが増加しています。特に大阪では再生委員の選任率が大きく上昇しており、事件内容や申立書の完成度がこれまで以上に重視される傾向にあります。再生委員が選任されると費用負担も増えるため、早期の相談と十分な事前準備が重要です。個人再生を検討する際には、自身の状況を正確に整理し、専門家とともに適切な方針を検討することが再建への近道となります。

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。