個人再生の【不動産査定書】には何を書いてもらう?
不動産査定書とは、土地や建物について「現時点でいくら程度の価格で売却できるか」を、不動産業者が専門的知見に基づいて算定し、書面にまとめたものです。
個人再生手続においては、不動産を実際に売却するかどうかにかかわらず、債務者が保有する不動産の価値を客観的に示す資料として、提出が求められます。
特に、住宅ローン特約付き個人再生を利用する場合には、必須の資料になる場合がほとんどです。
以下では、個人再生に必要な査定書の特徴やその算定について解説いたします。
目次
1 査定書の特徴
2 算定根拠
3 物件ごとの算定の特徴
4 必要な通数
5 金額の妥当性を検証されやすい場合
6 まとめ
1 査定書の特徴
個人再生では、実際に売る予定がなくても、売却前提で査定を依頼する必要があります。
債務の返済が困難な状況で不動産を売却する場合、通常の仲介売却を想定した査定よりも、査定額がやや低くなることがあります。
これは、売却後に生じ得る契約不適合責任への修繕対応や返金対応が困難である点を織り込むためです。
業者によっては、相場の70〜90%程度の「業者買取価格」を提示されることがありますが、これは原則として採用されません。
あくまでも、エンドユーザーが購入することを前提とした時価を記載してもらいます。
また、「○円〜○円」といった幅のある表示は好まれず、一定の金額に絞った査定が求められます。
やむを得ず幅を持たせる場合でも、中間値が採用されることがあります。
2 算定根拠
大阪地裁では、以下の要件を備えた査定書である必要があるとされています。
(1)対象物件が特定できること
(2)作成した不動産業者名および担当者名が明記されていること
(3)作成日付が記載されていること
(4)公示価格や路線価等の公的価格との比較、周辺の取引事例との比較、物件の個別性(立地、築年数、形状等)など、査定額の算定根拠が具体的に示されていること
都市部では、固定資産評価額を上回る査定額となる物件がほとんどです。
ただし、京都地裁では、住宅ローン残高が固定資産評価証明書の評価額の1.8倍以上である場合には、固定資産評価証明書のみで足りるとされる運用があります。
近畿圏では、いずれの裁判所においても、たいてい査定書が必要になります。
3 物件ごとの算定の特徴
(1)戸建て
戸建ては個別性が高く、特に郊外物件や築年数が古い場合には、業者によって査定額に大きな差が出やすい傾向があります。
太陽光発電システムやエコジョーズなどの高額な省エネ設備がある場合は、必ず査定書に反映してもらうべきです。
記載がないと、後日、裁判所から設備ごとの追加査定を求められることがあります。
(2)マンション
マンションは、規模が大きいほど成約事例が多く、市場価格(相場感)が比較的明確になります。
首都圏や大阪市内では、ここ5年ほど価格上昇が著しいため、後述する「清算価値事案」に該当しやすくなっています。
(3)土地名義が第三者の建物
土地が第三者名義の場合、建物だけでなく、土地利用権についても財産評価が必要です。
賃貸借であれば敷地の土地(更地)価格の50〜70%、使用貸借であれば10〜20%程度が、権利の評価額の目安となります。
例えば、地主に地代を支払っている場合は借地権付き建物として評価されます。
一方、実家の父親名義の土地に、無償または極めて低額の地代で借りている場合は、使用借権付き建物として評価されます。
(4)共有物件
親子や夫婦で共有している戸建てやマンションでは、物件全体の査定額を算出した上で、共有持分割合で按分するのが一般的です。
第三者との共有で使用に制限がある場合などは、単純な持分割合よりも低い評価になることがあります。
4 必要な通数
大阪では、1社による査定書1通で足りますが、京都や東京などでは、相見積(複数査定)として2通の提出を求められます。
5 金額の妥当性を検証されやすい場合
「清算価値事案」、すなわち申立人の総資産が、個人再生手続における総債務の最低弁済額を上回る事案では、不動産価格が弁済額に直接影響することが多く、査定額の妥当性が厳しくチェックされます。
算定根拠が乏しい査定書や、取引事例が遠方・古すぎるなど不適切と判断された場合には、再提出を求められます。
より厳しい対応として、個人再生委員が選任され、内容の詳細な検証が行われることもあります。
6 まとめ
個人再生における不動産査定書は、単なる参考資料ではなく、返済額を左右する重要な判断材料です。
算定根拠の具体性や妥当性が厳しく検証されることもあり、物件の種類や権利関係によって評価方法は大きく異なります。
地域の運用を踏まえた適切な査定書を準備することが、円滑な手続につながります。
監修者情報
弁護士
吉田浩司(よしだこうじ)
専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)
2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。