財産について

個人再生で大切な財産を残すには(自宅、保険、事業用資産…)

個人再生で大切な財産を残すための考え方(5つの代表例)
当事務所では、特定の財産を残すために、個人再生手続を知って相談に来られる方が増えています。
もっとも、「財産を残したい」という希望だけが先行し、実際に残すことの意味やメリット、残すために必要となる負担やコストを十分に検討されていないケースも少なくありません。

こうした相談に対しては、専門家の立場から、
・個人再生手続が本当に適しているのか、
・相談者の希望に沿うにはどんな選択肢が考えられるのか、
それぞれ整理しながら提案していくことが重要になります。

以下では、相談現場で特に希望の多い5つの財産について、
・個人再生手続上どのような評価を受けるのか、
・無事に残すためにどのような調整方法や工夫が考えられるのかを、具体的に見ていきます。

目次
1 住宅
2 自動車
3 (積立式)保険
4 商売道具(事業用資産)
5 退職金
6 まとめ

1 住宅

住宅は、相談時にもっとも要望が多い財産です。
生活の基盤であり、家族への影響も大きいため、「何とか残したい」という希望が最初に示されることが多くなります。

(1)清算価値との関係

コロナ前は、地価の長期的な停滞やゼロ金利政策の影響もあり、住宅ローン残高が不動産価値を上回る、いわゆるオーバーローンの事案が多く見られました。
しかし、コロナ後は不動産価格の上昇により、不動産の時価がローン残高を上回るアンダーローンの事案が増えています。
その結果、清算価値が数百万円に及ぶケースも珍しくなくなっています。

(2)代わりの財産を調達できるか

仮に売却によって数百万円の余剰が見込める場合、

①いったん住宅を売却して手元の生活資金を確保し
②賃貸住宅へ住み替えたうえで
③残った一般債務を個人再生で圧縮する

という選択は、経済的には合理的といえます。

もっとも、特にご家族のいる相談者の場合、
「自宅を持っていること」自体に強い安心感、価値を感じている方も多く、
経済合理性だけでは割り切れず、売却に踏み切れないケースも少なくありません。

(3)実務上よく使われる調整方法

住宅ローン残高と時価との差額(清算価値)が、他の財産と合算しても100~200万円程度にとどまり、最低弁済額の増加が数十万円程度にとどまる場合には、
返済額が多少増えても自宅を維持したまま再生を希望する方が多い傾向にあります。

一方で、清算価値が200~500万円に及び、小規模個人再生における最低弁済額が100~200万円程度と見込まれる場合には、
自宅を残すために弁済額が100~300万円程度増加することになります。

このような場合には、一度自宅を売却するという選択をされる方も増えてきます。

(4)今後の見通し・傾向

現時点では住宅を残したいという希望が多いものの、返済負担や生活再建の観点から、今後は自宅を手放す判断をする方がさらに増えると考えられます。

2 自動車

自動車は、住宅ほどではないものの、思い入れを持つ方が多く、相談時に残したいとの希望が出やすい財産です。
その一方で、毎月のローンや維持費が家計を圧迫しやすい点には注意が必要です。

(1)清算価値との関係

特殊な車両を除けば、中古自動車の価格は数十万円から300万円以下であることが多く、高額な車両はローン付きで購入されているケースがほとんどです。
住宅ほど清算価値が大きな問題となることは少なく、むしろ、これからの生活で自動車の維持費が払えるのかという履行可能性や、ローンの支払継続が難しくなる点が実務上の問題になります

(2)代わりの財産を調達できるか

住宅と異なり、自動車には強い個別性がなく、同程度の中古車を再度購入できる可能性が高いという特徴があります。

(3)実務上よく使われる調整方法

ローン負担や再購入が可能であることを説明すると、多くの相談者は自動車を残すことを断念されます。

どうしても自動車が必要な事情がある場合には、
・残ローンが少額であれば親族に買い取ってもらう
・家族名義で比較的安価な中古車を購入する
といった対応で問題を解消することがあります。

なお、申立本人が元のローンを支払い続けることは、個人再生手続き上、事業継続においてその車両が不可欠な場合に限られています。

そのため、該当例はごくわずかです。

3 (積立式)保険

お子様のいる家庭や、高齢の相談者の場合、積立式の保険はできるだけ残したいとの要望が出ます。

(1)清算価値との関係

解約返戻金が50万円から100万円近くになる保険契約がある事例も見受けられます。
特に、「債務原因を家族に隠しており、配偶者はきちんと将来に備えていた」場合にこうなることが多い傾向があります。

この場合、他にも退職金や積立金などの財産があれば、最低弁済額が100万円から200万円となる申立てでは、
保有資産総額が最低弁済額になる、いわゆる清算価値事案となる可能性があります。

 

(2)代わりの財産を調達可能か

高齢で再加入できないとか、学費目的の資金には手を付けたくないとの理由で解約に強い抵抗を示す方も少なくありません。
こうした問題については、後述する「契約者貸付制度」を使うことで、一定の調製が可能となります。

 

(3)実務上よく使われる調整方法

契約者貸付制度とは、積立式の保険解約返戻金の一定額まで貸付を受けられる制度です。
これにより、一時的に保険の財産価値を下げられます。
そして、その貸付金を個人再生の申立費用や滞納した税金の支払いに充てることができます。
当事務所では、高額の解約返戻金がある方の半数程度は、この方法を選択しています。
ただし、家族に再生のことを完全に内緒にしている場合や、債務原因が浪費等であり、家族の協力・賛同が得られない場合には、貸付制度を使わないで申立てることもあります。

4 商売道具(事業用資産)

個人事業主の場合、事業を継続するためには、機械・工具や在庫、材料等は残したいという希望があります。

(1)清算価値との関係

決算書の固定資産台帳に高額な資産が計上されている場合、その現在価値について説明が必要となります。
補助金や借入を利用して購入した業務用機器、事業用車両も評価対象です。
フリーランスが使用するパソコンやタブレット端末、建設業者(一人親方)の建築用具、清掃業者の清掃用具は、購入時は高額であっても買取価格がほとんど付かず、清算価値への影響は限定的です。
店舗内装についても、譲渡性がないため評価はかなり低くなります。

(2)代わりの財産を調達可能か

購入後年数が経過している事業用資産は、評価額が低いため、問題になりにくい事項です。
ただし、備品の多くをリース契約で利用している場合、原則として、再生の準備のために一律に支払停止する必要があります。
停止した場合にはリース物品が引き揚げられることになります。

このような場合、同等品を現金で調達可能か、すべきかという点を検討する必要に迫られます。

(3)実務上よく使われる調整方法

リース対象品の場合、
A.将来の月額負担を考えてもなお残す必要があるときは「共益債権」として支払いを続けます。
B.同等品を安く調達できるか、あるいはそもそもなくても業務可能な場合には引き揚げてもらいます。

(4)今後の見通し・傾向

一般的な個人事業の規模では、商売道具が清算価値に大きく影響するケースは少ないです。
この傾向は今後も変わらないことが想定されます。

5 退職金

個人再生では、退職見込金の一部が清算価値として評価されるため、その見込額を示す資料が必要です。
このことを依頼者に伝えると「まさか財産として評価されるとは思っていなかった!」と意外な反応をされることが多いです。
なお、大阪の場合、勤続5年以上の給与所得者であれば退職金見込額の調査を求められます。

(1)清算価値との関係

自己都合退職を前提とした見込額の8分の1、すなわち12.5%が清算価値として評価されます。
例えば、退職金見込額が800万円の場合、清算価値は100万円となります。
なお、企業型確定拠出年金(DC)は清算価値がないため、再生手続への影響はありません。

(2)代わりの資料を調達可能か

退職金額を示すには、勤務先に「退職金証明書」を作成してもらう必要がありますが、依頼しづらいのが現状です。
代わりに、就業規則(退職金規程)と現在の役職、俸給、入社年月日の情報をもとに自ら算出することもあります。

(3)今後の見通し・傾向

現在では、退職金の清算価値が手続全体に与える影響は相対的に小さくなっています。
ただし、退職金見込額をどのように証明するかについて、実務上苦労する例は少なくありません。

6 まとめ

1から5の財産は性質こそ異なりますが、相談者の希望を前提としたうえで、各条件を整理すると、判断のポイントが明確になります。
整理する際には、清算価値、代替手段の可能性と調整方法を検討することが肝心です。
感情的に「残したいかどうか」だけで判断するのではなく、どの点が問題になり、残すためにはどの程度の経済的負担を引き受けるのかを確認しておくことが、現実的で納得感のある個人再生手続につながります。

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。