債務について

再生すると保証人に迷惑がかかる?―奨学金と個人再生2

前回は、将来、子どもが奨学金を借りる場合、現在借りている場合に、連帯保証人になる親に対し、個人再生手続がどう影響するのか説明しました。

 

今回は、奨学生(借主)本人が個人再生手続をする場合、(連帯)保証人にどう影響するのか、日本学生支援機構の貸与型奨学金を例にご説明いたします。

 

※以下は、日本学生支援機構のウェブサイト及び個別の問い合わせに基づいて説明するものです。育英会など別の団体が実施する奨学金事業の場合には、以下の場合と結果が異なることがありますので、ご注意ください。

 

【この記事のポイントは以下の6つ】

・奨学生が個人再生手続をした場合の流れ

・保証人に頼らず自分が払い続けることはできるのか

・保証人に知られず個人再生手続はできるのか

・保証人の信用情報に影響はあるのか

・機関保証への変更条件

・まとめ

 

奨学金を返済中…保証人にはどんな影響が

大阪に住むAさんは、学生時代に借りた奨学金を毎月約2万円返済中です。ほかにもカードローンやクレジットカードの利用などで債務が増え、返済が苦しくなってきたので、個人再生手続を検討するようになりました。

しかし、奨学金の連帯保証人は父、保証人は叔母となっています。2人に迷惑がかかるかもしれないと考えると、なかなか踏み切れません。

 

Aさんが、実際に個人再生手続をしたらどうなるのでしょうか。

 

奨学生が個人再生手続をしたら

まず、弁護士に、個人再生手続の申立てを依頼するときは、債権者(借入れ先)はすべて平等に扱います。一部の債権者を手続きから外したりすることはできません。ですから、奨学金についても、弁護士から受任通知を発送してもらい、返済を止めなければいけません。

日本学生支援機構は、弁護士から受任通知を受け取ると、まず代理人弁護士にあてて債権調査票(返済額の残高や契約日、保証人の氏名などを記載した書類)を返送します。その際、今後の返済口座を「連帯保証人」名義の口座に変更するよう指示する文書を同封します。

Aさんは、弁護士を通じて返済口座変更の書類を受け取ると、連帯保証人(父)に事情を説明して、口座変更をお願いすることになります。

 

口座変更依頼の手続きを行った後は、連帯保証人(父)名義の口座から、これまでと同じ毎月約2万円が引き落とされます。

一方、Aさんは、個人再生手続が認可されると、再生計画に従って減免された債務を返済しますが、奨学金返還債務も一部返済することになります。

認可後は、連帯保証人(父)と、Aさんは、同時並行で奨学金を返済しますので、今までよりも多く返済することになります。ただし、その分、返済期間は短くなります。

 

父に迷惑はかけられない…自分が払うわけにはいかないのか?

Aさんは、父の口座から引き落とされる奨学金を、元どおり自分で払うことはできないかと考えました。

 

しかし、個人再生の手続き中は、家計収支表を裁判所に提出し、月々の支払内容を報告する必要があります。一部の債権者(日本学生支援機構)だけを特別扱いして、返済をすることはできません。

認可後は家計収支の報告義務はありません。それでも、もし再生債務を支払いきれずに破産してしまった場合、連帯保証人(父)に優先的に返済していたことが発覚すれば、偏頗弁済(へんぱべんさい)として破産免責不許可の理由になることもありえます。

 

弁護士のアドバイスとしては、父に立替分を返済をするのであれば、再生手続きの返済が終わってから行うべきだといえます。

 

(連帯)保証人に個人再生したことを知られたくない…

また、Aさんは、父や叔母に個人再生を秘密にしたまま手続きできないかと考えました。

 

しかし、先に書いたように、奨学金を債務整理(個人再生含む)すると、返済口座を連帯保証人の口座に変更する必要があります。少なくとも連帯保証人である父には、事情を説明して、協力を得なければ手続きを進めるのは難しいでしょう。

 

一方、連帯保証人が返済を続けている限り、保証人である叔母に日本学生支援機構から請求がいくことはありません。

 

ただし、再生債権者一覧表に保証人の住所氏名を記載した場合、裁判所から再生手続き開始の通知が届いて叔母に知られる可能性はあります。そのため、保証人を債権者一覧表に書かないまま、申し立てられないのか、検討するときもあります。

 

支払停止後に奨学生に代わって支払う連帯保証人を、債権者一覧表に載せるのはやむをえません。

しかし、実際に(立替)支払しない保証人まで債権者一覧表に記載する必要があるのかについては、各地の裁判所、あるいは裁判官によっても意見が分かれています。

奨学生(再生の依頼者)がどうしても保証人に再生を知られたくない場合、弁護士から裁判所に対し、一覧表から除外することを申し出る場合があります。(※ 除外の許可については、最終的には裁判所の担当裁判官の判断になります。)

 

本人が再生したら(連帯)保証人の信用情報にキズがつく?

Aさんは、再生申立した場合、「(連帯)保証人の信用情報に影響するのではないか」という点も気がかりでした。

Aさんが再生のために弁護士を通じて受任通知を発送すると、信用情報機関に事故情報が登録されます。事故情報とは「支払遅れ」「強制解約」「代位弁済(保証会社が代わりに支払うこと)」「債務整理(弁護士や裁判所が介入した手続き)」などの返済に影響する事情のことです。

しかし、借りた本人である奨学生が債務整理しても、(連帯)保証人(父と叔母)は、自分の債務と、自分が保証した債務に関して約束通りに返済していれば、Aさんが債務整理したことを自分の事故情報としては扱われることはありません。

 

機関保証への変更条件

債務整理をする前に、親族による保証人から、保証会社による機関保証へと保証を変更することはできるのでしょうか。

日本学生支援機構のホームページには、機関保証への変更の条件として、以下の4点が挙げられています。

 

・延滞していないこと。

・振替口座による返還を行っていること。

・奨学生本人が破産、債務整理等の状態にないこと。

・保証料の一括振込が可能であること。

 

保証料は、奨学金の数%です。最初から機関保証を選択していた奨学生には、月々の奨学金貸与のたびに、天引きしたうえで給付されています。

 

親族による保証の場合、このような給付時の天引きがないので、給付が終ったあと(卒業した後)に機関保証に変更する場合、数万円~数十万円の保証料を一括で用意する必要があります。

 

借入額や期間に応じて変わるのですが、ウェブサイトによれば、4万円を4年間で計192万円を借りた場合、支払う保証料の総額は、第1種の奨学金で約6万円、第2種の奨学金で7万円少しとのことです。

 

Aさんは、奨学金の返済を1ヶ月遅れて支払っており、保証料も一括では準備できそうにありません。再生手続きが必要な状況に陥ったあとでは、一般的には、機関保証への切り替えは難しいようです。

 

結局、保証人に知られずに個人再生は無理?

日本学生支援機構の貸与型奨学金に関しては、個人再生手続をすると、支払い口座の変更手続きや、連帯保証人への請求が必ず発生します。そのため、連帯保証人に知られずに個人再生手続を進めるのは難しいでしょう。

連帯保証人である親には、再生手続きに入る前に、最低限、「返済が難しく、債務を整理する」必要が生じたことは伝えておく必要があります。

 

親には一切知られたくない、迷惑もかけたくないという場合は、「任意整理」(個別の債権者交渉)という手段もあります。ただし、個人再生とは違い、将来の利息分をカットする程度で、返済総額はほとんど減らないことが多いです。

当事務所の実例からいえば、年収額を超える債務がある方、例えば年収350万円で奨学金含めて債務が350万円以上ある方の場合、よほどの事情がない限り、任意整理で完済することは難しいです。

 

また、「奨学金だけを任意整理して、ほかの債務は個人再生に」ということはできません。個人再生を使わず、任意整理だけで返済ができるのかどうかは、慎重に考える必要があります。

 

このように、債務整理を行う際には、親族に保証してもらった奨学金が残っている場合、非常に悩んでしまう方が多くおられます。

 

最近は、大学を卒業したからといって奨学金を返済できる職に就ける確証はありません。また、借りた本人でもないのに、多額の債務を肩代わりさせられる「保証人」制度には、規制が強化されつつあります。

 

これから奨学金を借りる方、あるいは就職して奨学金を返済中の方でも、コストはかかるものの、機関保証の方式について、一度ご確認されるのが良いかと思います。

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。