債務について

ペアローンってなに? 申立方法が大きく変わる住宅ローン―2

住宅ローン特約付きの個人再生手続きを利用する際に、住宅ローンがいわゆる「ペアローン」に該当する場合、夫婦ともに再生が必要になることがあります。

しかし、契約書や申込書には「ペアローン」とはっきり書いていないのがふつうであり、借りている本人はもちろん、弁護士でさえ判別できていないこともあります。前回は、どういった住宅ローンが「ペアローン」にあたるのかを解説しました。

今回は、もしペアローンだった場合にはどう対処したらよいのかを説明します。

 

1 ペアローンの特徴とその判定

(1)2本以上の住宅ローンがあること

(2)債務者が夫、妻2つの抵当権がついている

(3)夫婦共有の物件であること

(4)まとめ(小)

                                                        ・・・ここまでは前回のコラム

2 ペアローンを再生で残す場合

(1)夫婦両方の申立てが原則

(2)単独申立てが認められる場合

3(番外編)妻が支払困難になったら夫はどうするべきか

4 総まとめ

 

 

2 ペアローンを再生で残す場合

(1)夫婦両方の申立てが原則

ペアローンは、再生申立人の所有不動産の一部に、配偶者の債務を担保するため抵当権がついています。

この点が、住宅ローン特約の法律上の要件を満たさないのではないかとの問題があり、裁判所は夫または妻いずれか単独の再生申立を認可するには消極的です。

この点を解消するため、多くの裁判所では、夫と妻がいずれも個人再生を申立てる場合には、ペアローンにも住宅ローン特約の適用を認めています(必ずしも同時申立てである必要はありません。)。

 

(2)単独申立てが認められる場合

しかし、夫婦の一方が再生を必要とする状況にあるからといって、他方の配偶者も同じように多額の債務があるとは限りません。

特に、再生を必要とする方の債務原因が浪費や詐欺被害など、事業や生活に関係のない場合には、他方配偶者の理解、協力が得にくいこともあります。

 

上記のように、

・債務原因により配偶者の協力を求めにくい事案や、

・配偶者が休職中であり、再生に必要な収入の要件を満たさない事案など、

夫婦ともに個人再生を申し立てることが難しいケースもあります。

このような場合、例は少ないものの、申立人のほうから積極的に個人再生委員の選任を求め、個人再生委員及び住宅ローン債権者の意見を聞いたうえで、一方のみの再生手続きを通してもらう事例もあります。

取扱い例は少ないですが、当事務所では複数実施した例があります。

 

3(番外編)妻が支払困難になったら夫はどうするべきか

以上の項目では、債務が増えて返済不能のおそれが生じた一方の配偶者が、どのようにして再生を申し立て、自宅を保持するのかを解説しました。

それでは、逆の視点、つまりペアローンを組んだ夫婦のうち、他方が、失職などして支払いができなくなった場合、まだ払える側はどうするべきでしょうか。

 

(1)妻が住宅ローンを払えなくなった

夫Aは自分の住宅ローンを払えるが、妻Bが病気になり(あるいは産休を機に退職し)、B自身の住宅ローンを払うのが難しくなった夫婦を例に説明しましょう。

通常、払える限りは、AがBの分も含めて住宅ローンを払うでしょう。

その後、Aが、2人分の住宅ローンと生活費を1人で負担するのが苦しくなってきたら、①任意整理をするか、②単独での個人再生を検討することになるでしょう。

あるいは、住宅ローンの月額負担だけでも減らそうとして、③AとBの住宅ローンのリスケ(リスケジュール。返済元本や返済期間などの条件変更)の交渉をすること考えられます。

ただし、リスケをすると優遇金利が適用されなくなり、負担金利が年2%前後上がることもあります。

そうすると、長期的には負担する住宅費がぐっと大きくなります。リスケはよく考えたうえで実行したほうが良いでしょう。

※ 以上の解決例は、夫婦で状況が逆でも同じです。

(2)妻があらゆる返済をできなくなった

では、妻Bには、住宅ローンのほかにも数百万円の借入れがあり、支払うのが難しくなった場合はどうでしょう。

もし、BがAに債務のことを相談せず、そのまま返済をストップしてしまうと、Bの住宅ローンは、保証会社に代位弁済されてしまう可能性が高いです。

その場合、Bの残ローンはAB両方に一括請求され(※AはBの連帯保証人であるのが通常)、支払えない場合には自宅が競売にかけられる危険があります。

Aとしては、保証会社に代位弁済される前にBの住宅ローン債権者と話し合いをして、Bの住宅ローンの支払条件を変更するか、早期に完済するための準備を進める必要があります。しかし、これは至難の業です。

しかも、住宅ローンの支払いを停止してから代位弁済を受けるまで短い場合には6カ月程度しか猶予がないので、Bが返済していないことを黙っていれば、時機を逃す危険もあります。

このような状況の最善策としては、Bがローン支払いを止める前あるいは少なくとも破産の申立前に、AがBの債務整理に協力し、Bの任意整理またはAB両方で個人再生を申し立てる手立てを講じなければなりません。

 

4 総まとめ

ペアローンは、そもそも判別がつきにくい住宅ローンであり、しかも該当する場合には個人再生の申立てについてひと工夫が必要になります。

再生の相談に来る方のなかでペアローンの率は非常に低い(印象では5%以下?)ものの、該当する場合には例外なく夫婦間の話し合いが不可欠です。

ペアローンを組んでいる夫婦(より広く考えるのであれば夫婦共同で住宅ローンを組んでいる夫婦)は、家計の状況や負債について、通常の夫婦以上に情報を共有しておく必要があります。

また、ペアローンを借りている方が再生を相談される場合は、ペアローンについてきちんと理解した弁護士に依頼するようにしましょう。

もし、未経験の弁護士に依頼してしまうと、申立直前になって、あるいは申立後に裁判所から指摘を受けて、急いで配偶者に再生申立の相談をしたり、それができない場合、再生の申立自体を取り下げたりしなければならなくなり、債務整理がとても難しくなることもあります。

 

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。