財産について

「もうあきらめた」では済まされない? 未収金の再生事件での扱い

個人再生の申立では、負債が増えた原因を説明する必要があります。

負債が増えた原因の一つに、「売掛金の不払い、未回収」がある場合や、「貸したお金が返ってこない」場合を挙げられることがあります。

 

このような場合、未回収の売掛金や、他人に貸したお金、投資金は、「債権」の一種として、財産目録に計上する必要があります。

 

未収金額が少しであれば影響ありません。

しかし、計上する金額が100万円、500万円など大きい場合、再生手続きで返済する金額が増えてしまうという影響が生じることもあります。

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以上の仕組みはちょっとわかりにくいかもしれません。今回は場合分けして、それぞれ未収金がどう扱われるのか、以下に説明いたします。

 

1 全く返ってこなかったお金はどうなる

2 一部返済されている場合はどうか

3 財産目録に載せることの影響

4 まとめ

 

1 全く返ってこなかったお金はどうなる

(1)すでに破産、廃業している相手の場合

貸した相手が破産した、廃業して今はもういない場合、そのことがわかる証明を出せば、再生手続き上は、未収金の価値は「0円」として資産評価されるでしょう。

(2)長期間返済が受けられていない場合

運転資金や投資事業など、商売に関する貸金、預け金などであれば、さいごの返済から5年以上経過すれば、借りている側に返済義務がなくなります(消滅時効)。

事業に関係なく個人的に貸し付け、立替えた費用などであれば、返済義務がなくなるのはさいごの返済から10年以上です。

(ただし、請求権の性質によって時効にかかる期間が変わることもあるので注意してください。)。

(3)詐欺被害に遭った場合

実例1:紹介者を通じて海外FXや仮想通貨の運用委託などによって月数%の配当を得られるというので数百万円預けた。しかし、何度か配当されたあと応答がない。

実例2:SNSで知り合った人物から、WEBアプリ操作のうえ(仮想通貨等の)売買を勧められて儲けが出たが、返金のためにさらに入金が必要などと言われて解約させてくれない。そうこうしているうちに連絡が取れなくなった。

これらの実例は、投資詐欺の被害にあった可能性が高いです。

思い当たる場合、まずは一連の事情を警察に相談し、被害申告を行う必要があります。

警察のネットワークにより、同種の被害が複数出ていることが分かった場合、送金対象の口座が凍結され、配当されて被害弁償が行われることがあります。

ただし、ほとんど返金がないのが普通ですので、過剰な期待は禁物です。

回収はできなかったとしても、送金の理由や凍結口座からの回収が出来なかったことを説明すれば、民事再生上は価値ゼロとして評価される場合があります。

(4)元恋人、友人に貸したお金が返ってこない場合

人間関係の遠慮から、強く返済を迫ることができない貸付金もあります。

返済の可能性がある場合には、

請求しづらい本人に代わって弁護士が連絡し、応じない時には訴訟することもあります。弁護士であれば、転居先を調べたり、電話番号から契約相手の住所を調べたりして一定の回収活動をすることができます。

しかし、相手の収入、資産が分からない場合、訴訟までするべきかどうか、費用対効果の点から悩ましいこともあります。

また、借用証なしで多額のお金を渡した場合には、そもそも返金を求める理由が立たないこともあります。

このような場合には、財産目録には計上しないこともあります。

 

 

2 一部返済されている場合はどうか

例えば、200万円貸したが、毎月2万円ずつ100回で返すことになっており、これまで25回返済があるような場合、①額面上の残金150万円で計上する、②再生弁済期間である3年の間に受け取る見込みの金額に限って計上する(2万円×36=72万円)などが考えられます。

滅多にみることはありませんが、少しずつでも返済が受けられている場合には、回収の見込から考えて、金額をそれなりに減らして財産計上すれば問題ありません。

 

3 財産目録に載せることの影響

未収金を財産目録に計上すると、清算価値保障の原則により、再生の返済金額に影響することがあります。

たとえば、債務総額800万円の場合、最低弁済額は160万円です。しかし、資産として保険解約返戻金80万円、自動車時価50万円のほかに、友人への未収貸付金150万円を保有していた場合、未収金を額面どおり評価すれば、清算価値は280万円となり、再生計画による支払額は160万円ではなく、280万円となります。

 

このような事態を避けるためには、例えば、

・請求の相手先が自己破産した、

・転居先を弁護士が調査して請求したが「宛所尋ねあたらず」で郵便が届かない、

・提訴し判決を得たが執行対象になる財産がない

などの事実を証明し、額面150万円の権利は実際には価値がない(0円)などと説明する必要があります。

 

4 まとめ

以上のとおり、未回収のままになった貸金、投資金などは、金額によっては、再生手続きに大きな影響を及ぼします。

ただし、当事務所の経験では、きちんと説明すれば、長期の未収金が原因で再生できないとか、想定以上の返済を強いられるケースはほとんどありません。

相手との関係、立場に遠慮して事情を説明しようとしない例もあります。

しかし、曖昧な説明ではぐらかそうとすれば、裁判所から「財産隠匿」を疑われて個人再生委員を選任されたり、申立人自身が不利益を被ることがあるので注意しましょう。

 

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。