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「反対されるのが怖いから」給与所得者等再生を選んではいけない?

「反対されるのが怖いから」給与所得者等再生を選んではいけない?

会社員の方が個人再生を考えるとき、「給与所得者等再生」という手続の名前を見て、「自分はこちらを使うのだろう」と思われることがあります。

たしかに名前のうえでは会社員向けのように見えますし、「債権者に反対されても計画が通る」という安心感もあります。
しかし、実際は、ほとんどの申立ては小規模個人再生手続です。なぜそうなっているのか、詳しく説明いたします。

結論

実際には、特別な事情がない限り、会社員の方でも小規模個人再生を選ぶのが原則です。

漠然とした「反対が怖い」という理由だけで給与所得者等再生を選ぶと、返済額や手続費用が大きく増える可能性があります。

目次

1 個人再生には2つのタイプがある

個人再生の申立てでは、主に次のいずれかを選択します。

  • 小規模個人再生:①債務総額の5分の1~10分の1(最低100万円)、②財産の合計額(清算価値)か、いずれか高い方を超える再生計画を組みます。
  • 給与所得者等再生:上の2つに加えて、③「可処分所得の2年分」も比較し、①②③つのうち最も高い額を超える再生計画を組みます。

給与所得者等再生では、債権者に対して再生計画について意見を問う手続、いわゆる書面決議がありません。

そのため、債権者の過半数が再生に反対する意向を示していても、法律上の要件を満たせば、再生計画が認められます。

2 法律の「建前」と実務は逆になっている

個人再生手続が創設された当初は、給与所得者が給与所得者等再生を利用し、個人事業主などその他の就労者が小規模個人再生を利用することが想定されていました。

ところが、実際の利用状況は逆です。

現在は、多くの会社員の方が小規模個人再生を利用しています。

統計上も、近年は小規模個人再生の利用率が約90%に達しており、給与所得者等再生は少数派になっています。

つまり、会社員だからといって、給与所得者等再生を選ぶ必要があるわけではありません。

その理由は、主に次の3つです。

3 ① ほぼ反対されないから

「債権者に反対されて手続が廃止になったら困る」という心配はもっともです。

しかし、実務では、消費者金融、クレジット会社、債権回収会社が組織的に反対してくることはまれです。

実際に、反対意見が債権総額又は債権者数の過半数に達し、小規模個人再生が通らなかったケースは非常に限られています。

だからこそ、9割以上の方が小規模個人再生で手続を終えているのです。

反対が怖いという漠然とした不安だけで、給与所得者等再生を選ぶ必要はありません。

4 ② 給与所得者等再生は手続とコストが大きくなるから

最低弁済額が上がりやすい

給与所得者等再生では、「可処分所得の2年分」以上を最低弁済額として定める必要があります。

そのため、多くの事案では、小規模個人再生の場合よりも高い返済計画を組む必要があります。

例えば、当事務所の過去の事案では、小規模個人再生であれば最低弁済額が130万円程度と見込まれたものの、債権者の反対が想定されたために給与所得者等再生を選択した結果、返済額が400万円以上に増えたケースがあります。

債権者の反対を避けられる代わりに、返済額が大きく増えることがある点には注意が必要です。

個人再生委員が選任されやすくなる

裁判所は、申立内容を確認するために、個人再生委員を選任することがあります。

個人再生委員とは、手続を中立の立場から確認する人です。

東京、新潟、熊本など一部の裁判所を除けば、全国的には個人再生委員の選任はまれな事情といわれています。

しかし、給与所得者等再生で申し立てた場合、個人再生委員の選任率が高くなる傾向があります。
2023年の日弁連調査では、小規模個人再生の14.74%に対し、給与所得者再生は再生委員の選任率が26.04%になっています。)

給与所得者等再生は、債権者の不同意による廃止の可能性がないため、その分、裁判所が履行可能性を慎重に確認するためではないかと考えられます。

個人再生委員が選任されると、手続き費用が10~30万円ほど増加し、調査のために数か月期間がかかる可能性があります。

5 ③ 「反対されると破産へ」という誤解

法律上、小規模個人再生で債権者の反対により再生計画が廃止になった場合、裁判所により手続をそのまま自己破産へ移行できる旨が定められています。

これを牽連破産(けんれんはさん)といいます。

この制度を知っている弁護士の中には、「小規模個人再生で反対されたら、そのまま破産になる」と相談者に説明してしまう場合もあるようです。

しかし、個人再生の申立実務では、牽連破産はほとんど使われていません。

仮に不同意で再生計画が廃止されても、自動的に破産手続へ移行するわけではありません。

実際には、あらためて申立人の側で次の手続を選ぶことができます。

当事務所でも、破産を選択した方もいますが、多くの場合、返済額は上がるものの、給与所得者等再生として再申立てを行い、認可を得た事案があります。

「反対=破産」という恐怖から、最初から給与所得者等再生を選ぶ必要はないのです。

6 給与所得者等再生を検討すべき場合

もっとも、給与所得者等再生を検討すべき場面がないわけではありません。

例えば、次のように、反対が現実的に見込まれる場合には、給与所得者等再生が有力な選択肢になります。

  • 公務員共済からの借入れが過半数を占めている場合(互助会を含む)
  • 楽天カードからの借入れが過半数を占めている場合
  • 個人債権者が複数おり、全債権者の過半数から反対が見込まれる場合
  • 過半数を占める大口債権者が、住宅債権回収会社、信用保証協会、民間企業、個人債権者などであり、事前の折衝で明確に個人再生に反対の意向を示している場合

注意点

給与所得者等再生は、「会社員だから選ぶ手続」ではありません。

債権者の反対リスクが現実的に高い場合に、返済額や費用増加を踏まえて検討する手続です。

7 まとめ

会社員の方でも、個人再生では小規模個人再生を選ぶのが原則です。

給与所得者等再生は、債権者の反対を受けても再生計画が通るというメリットがあります。

しかし、その一方で、返済額が大きく増えたり、再生委員が選任されて費用や手続負担が増えたりする可能性があります。

また、実務上、消費者金融やクレジット会社が組織的に反対してくることは多くありません。

漠然とした不安だけで給与所得者等再生を選ぶと、かえって不利になることがあります。

どちらの手続を選ぶべきかは、債権者の顔ぶれ、債務額、財産状況、収入、返済可能性などによって変わります。

個人再生を検討されている方は、申立前に債権者構成や不同意リスクを確認し、自分にとって最も負担の少ない方法を検討することが重要です。

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。