債務について

その再生計画は大丈夫? 令和8年改正に伴う再生手続きへの影響2

その再生計画は大丈夫? 令和8年改正に伴う再生手続きへの影響2

令和8年(2026年)4月の民法改正で、養育費の回収しやすさが改善されました。
子どもの生活を守るためには望ましい前進ですが、養育費を支払う側が個人再生を考えるときには、その重要性を見落とすと計画そのものが崩れかねない注意点も生じています。

この改正には、性質の異なる二つの落とし穴があります。
一つは、取り決めた通常の養育費が「先取特権」で守られ、手続の外側で回収されやすくなったこと。
もう一つは、取り決めをしていなくても養育費が発生する「法定養育費」が新設されたことです。

これらは同時期の改正点なので並べて理解されがちですが、影響の出方がまったく違います。
以下、前半と後半に分けて見ていきます。

目次

1 養育費の「先取特権化」と返済計画への影響
2 取り決めがなくても発生する「法定養育費」
3 まとめQ&A
4 さいごに

1 養育費の「先取特権化」と返済計画への影響

(1)養育費は、個人再生をしても最終的にはなくならない

個人再生では、借金は再生計画によって大きく圧縮され、決まった額を原則3〜5年かけて返していきます。
しかし養育費は、この圧縮(減額)の対象から外れており、個人再生をしても最終的には満額を支払わなければなりません。

ただし、その支払い方は、養育費がいつ発生したものかによって二つに分かれます。正確に押さえておきましょう。

一方は、手続開始後に発生する養育費(将来の養育費)です。
これは「共益債権」にあたるため、債権者一覧表に載せる必要もなく、再生手続の外で随時、満額を支払っていくことになります。支払いを怠れば強制執行を受ける危険があります。

他方は、手続開始より前に発生していた過去の養育費(滞納分)です。
これは減額の対象外ですが、性質としては「再生債権」にあたります。
そのため、再生計画の弁済期間中は、いったんは他の債権と同じ減額後の割合で分割して支払えば足ります。ただし、計画の弁済を終えた後に、減額されていた残りの部分を一括して支払わなければなりません。期間中は負担が軽くなったように見えても、最終的には全額を支払うことになります(※)。

(※)以上の整理が2026年4月までの理解でした。後述するように、法改正により2026年4月以降、先取特権のある滞納分は、優先して支払う義務が生じます。

いずれにしても、養育費が個人再生で消えることはありません。返済計画に回せるお金は、収入から生活費と養育費を差し引いた「残り」でしかない——これが出発点になります。

(2)通常の養育費が、月8万円まで優先的に回収されるようになった

改正で新しく加わったのが、養育費への「先取特権」です。
取り決めた通常の養育費のうち、子1人あたり月8万円までの部分が、他の債権者に優先して回収できる債権になりました(※)。
(※)8万円を超える部分の滞納は、従前と同じく再生債権となります。

これにより、養育費は再生手続の外側で回収される性質を強めました。

調停調書・審判・公正証書といった、従来は必要だった「債務名義」がなくても、養育費の取決めを示す書面などがあれば差押えが可能です。
しかも、将来分までまとめて給与差押えができ、差押さえられる範囲も、通常の借金より大きく設定されています。

(3)実例の紹介

では、養育費を滞納したまま、再生申立を使用とするとどうなるか。言葉だけではイメージしにくいため、具体例で見てみましょう。

【ケース(新法施行後の滞納)】
手取り月36万円、生活費23万円の男性Aさんが、個人再生で毎月3万円ずつ返済する計画を考えていました。
ところが、Bさんとの離婚時に取り決めしていたCちゃんの養育費(月8万円)を滞納していました。

養育費では手取りの半分まで差し押さえることができます。Bさんが給与差押えを申し立てると、手取り36万円であれば、毎月18万円が天引きされます(滞納分を支払い切れば天引きは月8万円)。

差押後、Aさんの手元に残るのは18万円です。必要な生活費23万円に5万円も足りず、しかも再生のための積立3万円も捻出できず、再生計画は行き詰まってしまいました…。

養育費に基づく差押えは、他の債務と違い、個人再生を申し立てても当然には止まりません。
手続の外側で天引きが進むため、「再生手続に入ったから安心」というわけにはいかないのです。

こうした執行のしやすさを背景に、養育費の履行状況は、これまで以上に裁判所から問われやすくなっています。

実際、大阪地裁が編集した「事例解説 個人再生(第3版)」では、今後は、過去・将来の養育費支払い状況について、これまで以上に調査される場合があると指摘されています。

養育費の未納問題を抱えたまま、それに触れずに再生を進めることは、今後ますます難しくなると考えておくべきでしょう。

2 取り決めがなくても発生する「法定養育費」

前半は「取り決めのある養育費」の話でした。後半は、それとはまったく別の、取り決めが「ない」場合の落とし穴です。前半と混同しないよう、切り替えてお読みください。

(1)取り決めなしの過去とこれから

これまでは、取り決めがなければ「養育費なし」で申立てできた

従来、養育費の取り決めをしないまま離婚した方が再生を申し立てる際には、養育費の支払い状況を特に報告せず、「養育費の負担なし」として手続を進めても受け付けられていました。

2026年4月以降の離婚には「法定養育費」が発生する

ところが改正で、この前提が崩れます。2026年4月1日以降に離婚した夫婦については、取り決めをしていなくても、法律上当然に養育費が発生する「法定養育費」という制度が設けられたのです。

法定養育費のあらましは次のとおりです。

  • 2026年4月1日以降、養育費の取り決めをしないまま離婚した当事者(協議離婚、裁判上の離婚いずれも対象)
  • 請求権者は、離婚のときから引き続き子を主に育てている親
  • 金額は、子1人あたり月2万円(子が2人なら4万円)、離婚日から養育費の取り決めが成立する日まで、あるいは、子が成年に達する日などまで毎月発生

あくまで正式な取り決めができるまでの暫定的な制度です。しかし、取り決めがなくても自動的に債務が積み上がっていく点が、これまでと決定的に違います。

なお、支払能力がない場合や、支払うと生活が著しく困窮する場合には、支払いを拒める仕組みも用意されています。

これからは「取り決めていないから養育費なし」が通用しなくなる

制度の施行後は、離婚後に養育費の取り決めをしていない非監護親(子と離れて暮らし、養育費を支払う側の親)が個人再生を申し立てる場合、これまでのように「養育費なし」で済ませることはできません。

取り決めがなくても法定養育費が発生しているため、それを支払っていなければ、再生手続の最中、相手方から未払養育費を根拠に強制執行を受けるリスクが常にあるのです。

しかも、この法定養育費は時間とともに積み上がります。月2万円でも、離婚後1年で24万円、3年で72万円、5年では120万円もの債務になります。

「取り決めていないから何もない」とお考えの方の足元にも、これだけの負担が気づかないうちに積み上がっているのです。

(2)今はまだ表面化していないが、遠くない将来の話

法定養育費が発生するのは2026年4月以降に離婚した夫婦に限られるため、今のところ、当事務所では該当者からの再生申立てはまだ見られません。
しかし、時間の経過とともに、該当する方は必ず増えていきます。

そう遠くない将来には、養育費を支払っていない非監護親が個人再生を申し立てようとすると、積み上がった法定養育費のために返済計画が立たず、申立て自体が難しくなる——こういった事態も生じかねません。

2026年4月以降に離婚された方が再生を検討する際は、法定養育費の有無を必ず確認する。
このことは、これからの実務では欠かせない視点になると見込んでいます。

3 まとめQ&A

Q. 養育費は、個人再生をすれば減らせますか?

いいえ。養育費は個人再生をしても免除されず、最終的には全額を支払うことになります。これから発生する部分は毎月支払う必要があり、過去の滞納分は計画期間中はいったん減額後の割合で支払い、計画終了後に残額を一括で支払うことが想定されます(2026年4月以前のもの、または、月8万円を超える部分の扱い)。

なお、養育費の発生時期や、新法施行の前後、子一人8万円をこえるか否かで支払い方法に違いが生じるため、詳しくは別記事にて紹介いたします。

Q. なぜ養育費が「返済計画」を圧迫するのですか?

養育費は再生手続の外側で、満額のまま支払う(支払わされる)ことが想定される債務だからです。返済に回せるのは、収入から生活費と養育費を差し引いた残りだけです。ここを甘く見積もると、計画を続けられなくなります。

Q. 養育費のために、給与はどのくらい差し押さえられますか?

通常の借金では手取りの4分の1までですが、養育費・婚姻費用では手取りの2分の1まで差し押さえられます。将来の分までまとめて差し押さえられる点にも注意が必要です。

※民事執行法により、算定方法、控除の対象額は細かく決められています。

Q. 養育費の差押えは、個人再生を申し立てれば止まりますか?

他の借金と違い、当然には止まりません。手続の外側で天引きが続くことも十分想定されます。

Q. 「法定養育費」とは何ですか?

2026年4月1日以降に、取り決めをせずに離婚した場合でも、法律上当然に発生する養育費です。金額は子1人あたり月2万円で、取り決めがなくても自動的に積み上がっていきます。

Q. 別れるとき取り決めをしていないので、養育費は関係ないのでは?

2026年4月以降に離婚した方には関係します。取り決めのなかった夫婦間には法定養育費が発生しているため、支払っていなければ、再生手続の最中に差押えを受けることがあります。

1年で24万円、3年で72万円、5年で120万円と積み上がるため、必ず確認が必要です。

Q. 離婚した当事者が個人再生を考えるとき、何をすべきですか?

養育費の再確認です。取り決めの有無、月額、2026年4月以降の離婚か、滞納の有無を確認します。

支払義務者は、養育費を「減らせない固定費」として家計に正しく織り込んだうえで、無理のない返済額を設計します。逆に、請求権があるものの受け取ってこなかった方は、この機会に受領すべきかご検討ください。

判断に迷うときは、早めに弁護士へ相談してください。

4  さいごに

2026年4月の民法改正により、養育費はこれまで以上に個人再生の返済計画へ大きな影響を与えることになりました。取り決めのある養育費には先取特権が認められ、一定額まで優先的な回収が可能となります。また、取り決めがなくても法定養育費が発生する場合があります。
個人再生を検討する際には、養育費の月額や滞納の有無だけでなく、離婚時期や法定養育費の発生状況まで確認し、実際に支払い続けられる返済計画を立てることが重要です。

※本コラムは、令和8年民法改正の内容に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際の手続選択や返済計画は、ご自身の家計の状況によって結論が変わります。

監修者情報

弁護士

吉田浩司(よしだこうじ)

専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)

2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。