個人再生で養育費はどうなる?―― 減額されない養育費の「支払方法」を整理
1 はじめに
養育費は、通常の養育費であれ法定養育費であれ、個人再生によって減額(減免)されることはありません。旧法か新法か、手続開始の前か後か、金額が月8万円の枠内か枠外か——どの組み合わせでも、この結論は変わりません。
別の記事では、養育費の関連法改正による先取特権化や法定養育費の新設が、再生申立ての前後の支払い方法(下記1)や、再生計画そのものにどのような影響を及ぼすのか(下記2)を説明しました。
本コラムでは、これを踏まえ、養育費が個人再生でどのように扱われるのかを、手続開始の前後に分けてわかりやすく解説し、最後に一覧表にまとめます。
2 個人再生における債権の分け方
個人再生では、債権はいくつかの種類に分けられ、種類ごとに支払い方が異なります。本コラムに関係するのは、次の三つです。
共益債権・一般優先債権 ―― 手続の外で満額
共益債権(民事再生法119条)と一般優先債権(同122条)は、再生計画にのっとって減額・分割される債権ではなく、手続の外で随時、満額を支払う債権です。
養育費がこのいずれかにあたる場合、その養育費は再生計画とは別枠で、満額を支払うことになります。
再生債権 ―― 計画にのっとって弁済
再生債権(同84条)は、再生計画にのっとって支払う債権で、通常は大きく減額されます。
もっとも、養育費のうち先取特権の認められない部分は、再生債権であっても減額されない「非減免債権」とされています(同229条3項3号ハ)。この場合の具体的な支払い方は、後ほど説明します。
3 支払い経路を決める二つの分かれ道
養育費がどの債権にあたるかは、次の二つの時点によって決まります。
(1)開始「後」に発生する養育費
再生手続の開始後に発生する養育費は、いわば手続の外側にある「今の生活のための費用」にあたるため、共益債権(119条2号)として扱われます。旧法か新法か、8万円の枠内か枠外かは問いません。手続の外で、毎月満額を支払っていくことになります。
(2)開始「前」に発生した滞納分
ここで分かれる
枝分かれが生じるのは、手続開始より前に発生していた滞納分です。
先取特権が及ぶ部分、すなわち2026年4月1日以後に発生し、かつ月8万円の枠内にある部分は、一般優先債権(122条)として手続の外で満額を支払います。
これに対し、先取特権が及ばない部分、すなわち施行日より前に発生した分や、月8万円を超える部分は、再生債権にとどまります。
非減免債権として減額こそされませんが、支払い方に手続上のルールがあります。
再生計画の弁済期間中は、いったんは他の再生債権と同じ減額後の割合で分割して支払い、
計画の弁済を終えた後に、減額されていた残りを一括で支払う、という扱いです(232条)。
期間中は負担が軽くなったように見えても、最終的には全額を支払うことになります。
4 法定養育費の扱い
常に枠内で、二重に守られている
2026年4月以降に取り決めをせずに離婚した場合に発生する法定養育費は、金額が子1人あたり月2万円で、先取特権の上限(月8万円)に常に収まります。
また、制度上つねに施行後の発生です。
そのため、開始前の滞納分は一般優先債権、開始後の発生分は共益債権に振り分けられ、いずれも手続の外で満額を支払うことになります。
加えて、法定養育費は非減免債権としても条文に明記されました(229条3項3号ハ)。
5 まとめ
「減らせるか」ではなく「どう支払うか」で考える
養育費は、個人再生をしても減額されません。
したがって、個人再生を検討する際は、養育費を「減らせる借金」ではなく「減らせない固定的な支払い」として、家計と返済計画に正しく織り込む必要があります。
支払方法は、突き詰めれば二つに集約されます。
手続の外で随時・満額を支払うもの(共益債権・一般優先債権)と、
再生計画にのっとって支払い、計画終了後に残額を一括で支払うもの(再生債権・非減免=232条処理)です。
いずれであっても、最終的に全額を支払う点は変わりません。
以下に、ここまでの整理を一覧表にまとめます。
※「旧法/新法」は各月分の養育費が施行日(2026年4月1日)の前後どちらに発生したかを指します。先取特権は施行後発生分にのみ及びます。
※「開始前/開始後」はその養育費が再生手続開始の前後どちらに発生したかです。開始後発生分は先取特権の有無にかかわらず共益債権が優先します。
※法定養育費は月2万円で常に8万円枠に収まるため、開始前発生分は一般優先債権に振り分けられ、232条によって処理されません。
本コラムは、令和8年民法改正等の内容に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際の手続選択や返済計画は、ご自身の状況によって結論が変わります。
監修者情報
弁護士
吉田浩司(よしだこうじ)
専門分野:債務整理事件(任意整理・個人再生・自己破産など)
2004年(旧)司法試験合格 2006年弁護士登録、2010年8月にTMG法律事務所開業。任意整理、個人再生、自己破産等の債務整理事件に数多く取り組んでいる。特に個人再生の取扱が多い。
